●日本画「寒空の下」メイキング特集 後編

山本すずめが得意とするアナログイラストの中でも、水彩などとはまた違った質感を持ち、特殊な存在感を漂わせている「日本画」。
篠原渚のルール(仮)特設ウェブサイトの公開を記念して、このイラストがいかにして描かれたかを2週にわたりお伝えする企画!
メイキング後編となる今回では、いよいよ色を塗っていきます。

■一色塗ってみる

前回、岩絵具には粒子があると言いましたが、実際に一色塗ってみるとその感じがよく分かると思います。

こんな具合です。紙の目に粒子がひっかかっているのが分かると思います。
そのため、水彩絵の具や油絵の具のように色を伸ばす、ということはできません。水の量によって色が薄くなるということもありません。
岩絵具はその粒子の層を重ねていくことで、複雑な色味を表現していくのです。

■髪の毛を塗る

では、ここからガシガシ塗っていきます。
先ほどのように薄く塗り重ねていくのも一つの方法ですが、今回はわりと厚塗りめで進めていきます。
用意したのは茶色系の絵の具です。

骨描きした輪郭線からはみ出ないように気をつけて塗ります。
また、紙が乾いてない状態で何度も塗り重ねると、下の絵の具まで動いてしまうので注意が必要です。一色塗ったらしっかり乾かす。時間がかかってめんどうですが、せっかく塗った絵の具が取れてしまってはどうにもなりません。
あえて乾かないうちに塗り重ねることもありますが、今回は一色ずつ乾かしています。

塗り終わりました。眉毛や瞳も忘れずに塗ります。
岩絵具には「濡れ色」と「乾き色」というのがあって、乾いているときよりも、濡れているときのほうが色が鮮やかに見えます。なので、そのためにも乾かすというのは大切な工程なのです。

■全体的に一色塗る

部分を塗ったら、全体に手を入れていきます。
部分的に進めていくと絵のバランスが悪くなりやすいので、部分を描いたら全体を、全体を描いたら部分を、というように進めていきます。バランスを崩すことでよくなることも多々ありますが、基本的には全体的に描き進めます。
ここでは完成のイメージとなる青い色を全体的に(髪の上にも)乗せていきます。顔を除いて、骨描きの線はあえて無視します。

手や後ろに垂れてるマフラーにまで塗って、かなり思い切った感がありますが、このぐらいやっても大丈夫です。はじめのうちは怖くてなかなか色を塗れませんが、思いきったほうが上達は早いです。
岩絵具はどういう順番で塗り重ねていくかでもその色の響き方は変わっていきますが、意外と最終的にはなんとかなります。

■描き起こす

顔や手にベースとなる肌色を塗りました。同じ色で髪の毛も何本か描き起こしています。
何度か塗り重ねていると最初の骨描きが見えなくなることがありますが、気にせず描きます。線が見えなくて困るときはもう一度墨などで描き起こせば大丈夫です。

■影色を乗せる

影色として紫系の色を乗せてみました。ここまでやると、かなりやばい感じがしてきますね。
こういうように「本当に大丈夫なのか」という段階を経たほうが、案外絵はよくなります。

■整える

さすがにあのままではまずいので、このあたりで一度バランスを整えます。
茶色系の色で、もう一度上から肌を塗ります。ついでに、髪の毛の明るい部分にも乗せて、明るさを落とします。
まだまだ肌色としては暗いですが、少し落ち着きました。
また、部分的に濃い茶色で顔や指の輪郭など、つぶれてしまった細部を描き起こしてあげます。

■手付かずのままだったマフラーを描く

そろそろマフラーが手付かずで気になってきたので、描き進めていきます。
地道な作業ですが、一色ずつ線からはみ出ないように丁寧に塗っていきます。

だいたい塗り終えました。さらにもう一色、マフラーの模様を塗ります。

ついでに、同じ色で頬から鼻にかけて赤みを加えました。少し寒そうに見えるようになった気がします。

■胡粉を塗る

岩絵具を扱う上で欠かせないのが、胡粉です。 白い息と、顔に薄く胡粉を塗りました。

★胡粉とは

胡粉とは、カキの貝殻から作られた絵の具で、白い絵の具です。下塗りに使うことで上の絵の具の発色をよくしたりと色々と重宝しますが、慣れないうちは白くなりすぎたり、綺麗な白にならなかったりと、なかなか難しい絵の具でもあります。
胡粉を溶くには「百叩き」など少しばかり特殊な方法を行うのですが、メイキングが長くなりすぎるのでここでは割愛します。
(詳しく知りたい方は「胡粉 溶き方」で検索してみてください)

■というわけでどんどん塗り進めます

青い色を全体的に乗せたり、胡粉を塗ったりと、だいたい同じような感じで塗り進めていくので、解説はほどほどにします。

また少し、やりすぎたりします。 途中経過。

だいぶ全体感が、完成図に近づいてきました。

顔に粒子の細かい茶系の絵の具を塗ったり、マフラーにもう一色かけたり、胡粉で整えたりします。

■棒絵の具で微調整

最後に棒絵の具で微調整を行います。
これは紅棒という棒絵の具で、空ちゃんの頬の赤みを加えます。

★棒絵の具とは

顔料と膠などを練って固め棒状にしたもので、墨と同じく、水をつけて指や皿で摺ることでその色の濃淡を出すことができます。
最終的な微調整などで使うことが多いようです。紅色だけでなく、藍色や黄色など、いくつか種類があります。

■完成!

こうして完成したのが、こちらです。

ななめから見るときらきらとしていて、岩絵具の粒子が感じられると思います。

 

いかがでしたでしょうか。
先週と今週とで二回にわたってお伝えしたメイキングの模様ですが、日本画の世界は本当に奥が深いです。実際に岩絵具に触れてみると、なかなか思ったようにいかないこともあったり、メイキングの中ではお伝えしきれないことがまだまだ沢山あります。
また、どうしても写真というメディアを使ってお伝えする以外に手段がないのですが、アナログイラストの醍醐味は「直接観る」ところにあると思っています。ぜひとも、どこかでみなさんに直接観て頂きたい気持ちでいっぱいです。
それでも今回の企画を通して、少しでも岩絵具という画材と、絵を描くということに興味を持って頂けたとしたら、嬉しい限りです。

 

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。