●日本画「寒空の下」メイキング特集 前編

山本すずめが得意とするアナログイラストの中でも、水彩などとはまた違った質感を持ち、特殊な存在感を漂わせている「日本画」。
篠原渚のノート特設ウェブサイトの公開を記念して、このイラストがいかにして描かれたかを2週にわたりお伝えします!

★日本画とは

 明治以後にヨーロッパから入った西洋画に対し、わが国在来の技法・様式による絵画。墨や岩絵具を使用するのが特徴的である。顔料を水干(みずひき・すいひ)といい、これにニカワを混ぜて和紙・絹などの上に毛筆で描く。

はてなキーワードより

※さらに日本画について詳しく知りたい方は「日本画」で検索してみてください。

■パネルを用意する

木製のパネルを用意して、そこに和紙を張ります。今回は雲肌麻紙(ドーサ引き)という紙を使用しました。
和紙にはいろいろな種類がありますが、そのまま色を塗るとにじんでしまいます。そのにじみを止めるためにドーサと呼ばれる液体を塗るのですが(ドーサ引きという)、今回はすでにドーサが引かれた状態で売られている紙を使いました。
また、水張りという方法で紙を張りますが、詳しい張り方についてここでは省略します。

■下絵を用意する

次に、下絵を用意します。鉛筆描き、原寸大です。これを先ほど用意したパネルにトレースすることで、線画を完成させます。後々描きやすくなったり、完成度にも関わってくるので、この段階でなるべく細部まで描いておきます。
モチーフは「森川空のルール」のヒロイン、森川空ちゃんです。

■下絵をトレースする

あらかじめ、下絵とパネルとの間に念紙というものを挟んでおきます(カーボン紙のようなもの)。また念紙(あるいはカーボン紙)がない場合は、下絵の裏にパステルや軟らかめの鉛筆で色をつけておきます。あとは上から赤ボールペンで線をなぞれば線画が写ります。

パネルに下絵が写りました。
このままでは色を塗ったときに線が見えなくなってしまうので、ここから線画を起こしていきます。

■墨をすずりで摺る

日本画では、線画を起こすときに墨を使います。自然な墨の濃淡を使うこともあるので、墨汁は避けます。

■骨描きをする

墨を使って線画を起こすことを「骨描き(こつがき)」といいます。色を塗る上で大事な手がかりとなるので、ていねいに描きます。基本的には「鉄線描(てっせんびょう)」(針金のように常に一定の太さの線を保つ描き方)で描き進めていきます。
場合によっては線画を起こさずにそのまま塗り進めてしまうという描き方もしますが、今回はしっかりとすべて描きました。

★ワンポイント 筆について

日本画ではさまざまな筆を使用します。色を塗るためのものや、線を描くためのもの、ぼかしを入れるためのものなど、用途別だけでなく、それぞれ何の動物の毛を使っているかによっても描き味など変わってくるので、筆選びは重要です。
骨描きなど、線を描くときは面相筆や、削用筆などを使います(今回はイタチ毛の面相筆を使いました)。
ですが、基本的には自分が使いやすいと思った筆を使えばいいと思うので、いろいろ試して自分の用途に合った筆を選びましょう。

そんなわけで途中経過。もう少しで骨描きが終わります。

骨描き終了。ここまでくればあとはいよいよ色を塗る段階に入ります。

■膠(にかわ)を溶かす

画材屋などで販売されている膠を湯煎で溶かします。膠は動物の皮や骨を煮ると出てくるゼラチン状のもので、接着剤の役割を果たします。油絵の具でいう油、水彩絵の具でいうアラビアゴムです。
この膠は、あらかじめビンなどに入れて水でふやかしておくと溶かしやすいです。ビンにいれるときの水の量は人それぞれ好みですが、あまり水が多いと膠の濃度が薄くなってしまいます。膠の濃度が薄いと、せっかく絵の具を塗っても、その絵の具がはがれやすくなってしまいます。
自分は三千本膠(そういう膠の種類がある)一本に対し、だいたいジャムのビンの5分の1〜4分の1くらいまで水を入れています。
湯煎するときは膠が沸騰しないように気をつけます。沸騰させてしまうと、絵の具を紙に定着させることができなくなってしまいます。

■絵の具を溶く

いよいよ絵の具を溶きます。日本画は岩絵具という画材を使いますが、読んで字のごとく、岩を砕いて粒状、砂状にしたものです。実際にはそれだけでなく、人工的に作り出した絵の具もありますが、どれも粒子状のものであることは変わりません。
また、同じ色でも1番〜13番くらいまで粒子の違いがあり、番号が小さいほど粗く、番号が大きいほど粒子が細かくなります。中でも一番粒子の細かいものを「白(びゃく)」といいます。
画材屋ではそれぞれ一両(15g)から販売しています。安い絵の具から高い絵の具までピンきりです。

それらの岩絵具を溶き皿に適量出して、膠を少しずつ加えて混ぜていきます。粒子の粗いものには多めの膠で、粒子が細かいものには少なめの膠で溶きます。ただし膠が少なすぎると紙にうまく定着しないので気をつけます。

膠と絵の具が混ざったら、水を少し足して絵の具の準備は完了します。ですが水を足しすぎると、膠の濃度が薄まるので、色を塗り重ねていくときに絵の具が動いてしまったり、筆について取れてしまいます。そうならないように水の分量も気をつけます。

★膠について

膠は天然のゼラチンなので、寒ければ固まります。夏でもクーラーなどが入っていれば固まるので、すぐ固まってしまって絵の具が溶けないという場合はその都度湯煎して溶かします。
また、膠は腐るので、常温での放置は(特に夏は)控えましょう。腐るとただ臭いだけでなく、絵の具を紙に定着させる力も弱まるので、その場合は捨てましょう。
絵を描き終えたらなるべく冷蔵庫などに保存しておきます。夏でも3日、冬なら1週間くらいもつようです。膠にはもともと独特の臭みがありますが、腐ると異臭を放ちます。

 

いよいよ色を塗っていきますが、メイキング前編はこのあたりで終了です。
つづきは、来週月曜日、7月23日公開のメイキング後編で。お楽しみに!